2011年7月25日月曜日

精索静脈瘤とはどんな病気か

静脈には血液の逆流を防ぐ弁があり、そのうち精索内の静脈の弁不全や狭窄があると血液が逆流して、精索の静脈(静脈叢じょうみゃくそう)が蛇行・拡張・怒張し、静脈瘤が発生し、血液が鬱滞(うったい)します。

精索静脈瘤は多く(80~90%)が左側にでき、ほとんどが無症状ですが、その程度が強い場合は陰嚢内に腫瘤(しゅりゅう)を形成します。陰嚢痛を訴えることもあります。立った姿勢で陰嚢を観察すると、皮膚の上から累々と膨れて見えて、怒責(どせき)するとさらにはっきり見えます。

また、思春期以降に多いのですが、小児にもみられることもあるようです。


精索静脈瘤という病気は男性の約10人(~5人)に1人が患うとされていますが、一般的に知名度が低く、睾丸・キンタマ・陰嚢・玉袋のちょっとした異常と簡単に捉えられるだけで、病気だと気づかない人も多いです。また、発症部位がキンタマということもあって、泌尿器科で受診することに抵抗を感じる男性(特に思春期)も多いです。現に私も高校生の頃から精索静脈瘤に患っていましたが、周囲からも単にキンタマが大きいと冷やかされ、自身もそう思っていました。精索静脈瘤という病気を知ったのは、結婚してから子作りする過程で不妊という問題に関わってからでした。

症状が進行することもあり放置すれば年々静脈瘤が肥大し悪化する場合もありますので、注意が必要です。また、精索静脈瘤が肥大化し鬱血量が増えると、その重さによって陰嚢が伸びることもあるため、生活するうえで大変な不便・不快が生じます(私の実体験)ので、早めの受診を強くおすすめします。



精索静脈瘤と不妊症

精巣の静脈は血流の灌流によって精巣を冷却するという作用を持つため、静脈の停滞は精巣温度の上昇を招くことから、精索静脈瘤は男性不妊症の原因になることもあるとされています。WHOは精索静脈瘤が精巣機能の悪化や男性不妊症に明らかに関連していると結論しています。

精索静脈瘤は男性の約10人(~5人)に1人が患い、男性不妊症患者の約25~40%にみられるようです。

手術により精液所見が改善したり、ライディッヒ細胞(男性ホルモンつくる細胞)機能が改善するため、妊孕性の向上が"期待"できますが、メカニズムについてはまだ完全には解明されておらず、不妊が改善するかどうかの結論はまだ得られていないとされています。

不妊治療・取り組みにおいては、精索静脈瘤については専門家の間でも様々な考えがあり、相手の女性との関連や自然妊娠との関連など総合的に勘案して、精索静脈瘤に対処していくことが重要だと考えます。


個人的には、不妊治療における精索静脈瘤が医学的にどうであろうと、日常生活のうえで不快・不便であり、それを改善したいという一点だけから、何らかの治療することを私の体験からはお勧めします。



精索静脈瘤の原因は何か

右側の精索静脈は直接下大静脈に繋がっているのに対して、左側の精巣静脈は左の腎静脈へと還流していきます。精索静脈瘤が発症する解剖学的理由として、左側の精索静脈のほうが右側の精索静脈に比べて長いこと、さらに下大静脈より圧の高い腎静脈に還流すること、これらが挙げられます。弁の異常により還流障害が生じて静脈血が停滞・逆流すると、精索静脈がこぶ状に拡張してきます。そのためほとんどが左側に発生し、両側の発生は少なく、さらに右側のみは非常にまれとされます。

また、静脈弁の先天性不全もあると考えられています。




精索静脈瘤の検査と診断

立位で腹圧をかけると腫瘤がはっきりしますので、臥位における状態と比較します。一般的には視診と触診をしたうえで、エコー(超音波)検査で精索静脈への逆流の確認と静脈の拡張を診ます。陰嚢シンチグラフィや赤外線サーモグラフィを使うこともあります。

精索静脈瘤のGrade分類

Grade 1  立位腹圧負荷・怒責ではじめて触知できる
Grade 2  立位で容易に触知できる
Grade 3  陰嚢皮膚ごしに見える



私の主観的な感想としては、泌尿器科の医師が男性であっても、看護師が女性の場合が圧倒的に多いため、相当に恥ずかしい思いをしました。下半身を露にした状態で診ますので、臥位はともかくも、立位での視診・触診は、忍びがたきを忍び、耐えがたきを耐え、キツかったです。尿瓶による排尿時にも、尿道カテーテルの挿入抜去時にも、女性看護師にペニスをつままれましたが、それらよりも恥ずかしかったです。



精索静脈瘤の治療の方法

精索静脈瘤の治療には外科的治療(手術療法)と内科的治療(薬物療法)とがあります。

内服では漢方薬の桂枝茯苓丸が著効することがある(慶応義塾大学病院サイト)とのことですが、一般的には手術が多く、結紮術と経皮的塞栓術があります。成人で疼痛が強い場合や、男性不妊症の原因と考えられる場合には手術の適応となります。思春期でも精巣の大きさに差がある場合は、将来の不妊を予防するため手術の適応と考えられています。

経皮的塞栓術は鼠蹊部から静脈内に細いチューブを入れ、そこから詰め物をして血液の逆流を止める方法です。

一般的には結紮術によります。腹腔鏡下結紮術もありますが、精索静脈高位結紮術と日帰り顕微鏡下精索静脈瘤低位結紮術が一般的に行われています。どちらも静脈等を結紮(けっさつ)する方法です。術式間で手術成績(再発率)にはほとんど差がないとされます。精巣静脈高位結紮術は手術手技が比較的簡単ですが、全身麻酔で、4日程度の入院が必要です(保険適用)。一方、日帰り顕微鏡下精索静脈瘤低位結紮術は手術手技が煩雑で術者の熟練を要しますが、局所麻酔で、名前のとおり日帰りが可能です(自費扱い)。


ドイツでは、足の付け根からカテーテルを侵入し、血管の流れを元に戻すという治療法が発表されたそうです。今後、日本においても期待したいところですね。